劇「カスリン台風」




アナウンスの声 次は、四年生の劇「カスリン台風」です。これは、昭和二十二年に登米郡をおそった 水害の時の様子を、おじいさんやおばあさんから間いて劇にしたものです。
それでは、四年生の劇「カスリン台風」を開幕いたします。どうぞ、ごらん下さい。


《《《第一場面》》》

幕開く 釣り人が北上川で釣りをしている。

ナレーター1 昭和二十二年の九月、大泉の土手です。この年は、雨が多く、北上川の水かさは いつもの年よリ上がっていました。





(船頭、舟に乗ってやってくる。)

船頭  つれすか? 釣り人 さっばりだねえ。(にが笑いをしながら答える)
    昨日は、ここでこんなこいつったんだげっともね。(大げさにじまんをする)
船頭  そうすか?おれは、この間こんなぬおっきいのつったごどありすと。こどすは、雨多いがらね。大物かがるおんねえ。

(上手に舟、船頭さんは客をすわって待っている。釣り人と、楽しそうに魚釣りの時の話をしている。)
お客、中田の方から田んぽの草かりをして、嵯峨立に帰るた舟に乗りにやってくる。)

お客1 おねげえしす。
船頭  ああ、どうもどうも。草がりすか?こどすの米、なじよってがす?
お客2 ながなが実はいんねえくてね。やつばり、こどすは、雨ばりふつたおんねえ。
船頭  ぞうすか。そいずはこまつたつちやねえ。


釣り人のさお、急に手ごたえがあり、大きくしなる。)




(みんなが、「おお−っ」と声を上げる。)(釣り上げるまでだいぷ苦労する。が、
やっとのことで釣り上げる。みんな拍手をする。釣り人、はずかしそうに照れる。)
船頭  んで、ちようどつれだどごろで、けえりすか。
釣り人 んだね、今晩のおがずにちようどいいね。こいずで、いっぺえやっぺす。
    どれや、ああこすいでえやあ。きようはいずぬずすわってだんだおんやあ。




お客1 空のあんべわりど思ってだつけ、ふつてきたねえ。なんだが、おっきい台風くるっつおんねえ。
お客2 こっちやこねげればいいげっともねえ。
船頭  あややや−。ずいぷんふってきたや−。

(魚に雨が降ってくる。雨の音)
ナレーター3 その夜から、強い雨がふりだしました。ぞして、次の日もまる一日中ふり続き、 ますます、強くなりました。北上川の水かさも、どんどんふえてきました。


《《《第二場面》》》

ナレーター4 夜中に、雨は上がりましたが、岩手県の方でふた雨が、北上川の水かさをどんどん ふやしました。そして、午前七時半には、土手の頂上まであと一メートル五十センチになりました。

村人2が歩いて下手から登場、土手から川水の上がった北上川を心配ぞうに見ている。そこに、 村人1が上手から登場。

村人1  なんだべねえ、すごい雨だったごど。まる二日、よぐふったねえ。今までにねえ雨 だったね。
村人2  んだがらっしやあ。おらも今、川水なんぽ上がったったがど思って、見っさきたんだでば。
村人3、小走りに下手から登場。教えるように言う。

村人3 いすの森の二川は、土手どごこえでまづさ入ったっつがすと。
村人1 おっかねごどねえ。おらほでは、こえねげいいね。んだっちやねえ。
村人2 んでもさっきだ、消防団の人だづ「土のうこせすねげね。」ってかだってたがすと。 だいじようぷだえっちやねえ。なんだが、すんぺえでがすちやねえ。
村人3(急ぎ足で灯っていく)んでねえ。

ナレーター午後一時には、村じゆうの各家庭から、米俵と一人ずつの作業の人足が集められました。
そして、各家庭では、たたみを二階に上げたり、荷物を運んだり、牛やぷたを山にひなんさせたりしました。

…・じゆ、つみんのみなさん… ひな−ん,



(消防団・警察官登場・村人 土のうつみを始める。)
(速くで消防団艮はんしよう・サイレンの音。)
消防団長 さあ急いで。どんどん運んで。
村人 あのサイレンはいすのもりだ。
村人 ぬすこおりでも、はんしようなつてだ。

ナレーター1 必死で土俵つみをしましたが、川水はどんどんふえ、午後九時になると三だんにつんだ 土俵をこえるようになりました。
(水が流れる音)
消防団 土手が切れるぞ−。ひな−ん。ひな−ん。
小松巡査さんじゆうみんのみなさん、土手がきれそうです。
急いでひなんしてください。(くりかえす)
(村人たち、次々に荷物を手に、ひなんする。)




小松巡査 消防団消防団小松巡査はい。私はもう一度見回ってから。

(消防団は下手ヘ、巡査さんは上手ヘ)
消防団無理してだめでがすと。
小松巡査 はい、わかりました。
     大丈夫ですか、気を付けてくださいね。
     おばあさおくさん、子どもから手をはなさないようにね。
     はい、急いでください。おさないで。順序よく。だめだ。はやぐひなんしろ。ひな−ん,ひな−ん, (消防団員、そろってにげてくる)巡査さんもいそがえんよ。

(急に土手が切れ、大水の流れる音大きく聞こえる)

ナレーター2 ひなんしたじゆうみんは、近くの高台から、真暗なやみの中に門こえる、おそろしい水の音を不安な気持ちで聞いていること しかできませんでした。とても長い夜に恕じられました。


《《《第三場面》》》

ナレーター1 泥水のカーテンを肩の高さにして、軽くゆらしておく)
村人、おぽれぞうに上手から登場。
巡査、板につかまって泳ぎながら登場)
小松巡査 がんばって。私は泳げるから、この板にしっかリすがっていきなさい。





村人 ありがとうございます。巡査さんも気をつけてね。

(それぞれ、流されるように上手、下手に)
(水の音静かになる。泥水のカーテンだんだん下げる)

ナレーター3 荷物をかたづけているうちににげおくれて、かたなく星根や木にのぽったまま一夜を 明かす人もたくさんいました。夜が明けると、そうした人たちのきゆうしゆつが始まりました。

(消防団、舟で登場。故出してきた人を乗せている。)

消防団1 だいじようぷでがすか。みんなそろって、お寺でまってだがら。
村人   おら、本当に死ぬど思った。
     まず、ゆめのようだ。こんなごどになっとは、かんげえでもみねがった。
     いのづばりたすかったのが運いがったようなもんだ。家全部持っていがれっとは、考えでもみねがった。あの巡査さん のおがげだった。巡査さん、大丈夫だったんだべっちやねえ。
消防団2 こいずあがしえ。にぎりめすだがら。

(消防団と助けられた人,舟で上手ヘ)

ナレーター4 それでは、この「カスリン台瓜一による水害のひ害について、説明します。

(登米郡の大地図をステージに運ぷ(黒板))
     本宮堤防が欠潰し、この水は大手口沼の方ヘ、ものすごい勢いで流れていきました。
     大手口沼の所でも、四メートルもの商さのたきが、できました。今でも大手口沼の底は深くえぐられている そうです。
ナレーター2 小松巡査さんをはじめ、なくなられた十二の方々は、本宮でこの水にのみこまれて、 大手口沼まで流されたのでした。岩手県の高倉の近くまで流されても、木につかまつていて、 運良く助かった人もありました。





ナレーター3 もう一方の流れは、八幡山の前を通って、冠木の方と中央小学校の方に流れていきました。 母屋(おもや)が流されたけん数は、本宮十五けん、大泉三けん、艮吋一けん、中央小の方で三けん、 合計二十二けんもありました。
ナレーター4 ゆか上しん水のけん数 本宮二十けん、大泉四十六、長崎三けん、冠木四十七、八播山 五けん、合計百二十一けんもありました。

ナレーター1 この水害は、戦争中に武器に使うために山から木を切り出しすぎたことも原因と 考えられています。

ナレーター2 水はよくじつの午後には登米の町まで進みました。堤防のふっきゆう作業は、 けつかいしてから、1週間後にはじまりました。


《《《第四場面》》》

(村人たちは、熱心に働いている。) 村長 みなさん、三笠官殿下がおいでになりました。
(三笠宮殿下を案内して、村艮が登場。村人うれしそうに)三笠宮殿下天皇陛下は、いそがしいので、 代理として私が参りました。陛下は大変みなのことを案じていられます。陛下からよろしくとのことです。 元気で復輿に努力してもらいたいものです。
村長 ありがとうございます。さあ、みんな、また台風が来る前に土手を作り直しましよう。
みなさんの力だけがたよりです。 村人 なぐなった人だづの命をむだにしてられねえ。ぜってえ切れねえ土手をつぐっと。

(みんな顔を見合わぜて、うなづき合う。

村人 村長さん、どんなぐつぐるんですか。
村長 今までより、一メートル五十センチ商く、土手を二だんに、作ります。長さは、千四百メートル です。これを、一カ月で完成させたいのです。岩手県には、ダムを作ってもらいます。 村人 ほほ−っ。(感心する様子)さあ、みんな一日も早く、新しい土手を作るんだ。
さあ、やるぞ−。
村人全貝おお−っ。

(みんな、熟心に働き始める。BGM(三笠官殿下、村長みんなの働く姿を感心するように、少し立ち 止まって見てから退場する。)

ナレーター この工事は、ブルドーザーなどの機械もまだ少なく、人々の労力がたよりでした。しかし、 二十八日と二時間という、おどろくほどの早さで完成しました。予定を二日間もたんしゅく したのです。


《《《第五場面》》》

村長 みなさん、よぐがんばってくれました。計画より早く完成にこぎつけました。みなさんの 努力のおかげです。本当に、ご苦労様でした。(礼をする)今日は、完成した土手を横綱「前田山 にしこをふんで、かためてもらいます。





(太鼓と拍子木の音)(太刀持ちを先頭にして横綱「前田山」が登場する。
(横綱土俵入リ)村人たち、よいしよの声を合わせる。
(村長さんの音頭で、万歳三唱をして幕)BGM



ナレーシヨン・こうして、土手の完成をみんなでいわいました。
心配していた、米のしゅうかくも、一反当たり五俵ぐらいはとれ、人々はほっとしたのでした。




川に関するリンク先