「カスリン台風」

これは，昭和２２年９月１６日の大洪水の史実を脚色し，平成５年
１１月１４日に当時の４年生が学芸会の劇として上演したものです。




　脚本を読む　　　（ 上演の写真もあります）
　当時の新聞を見る（昭和２２年９月２２日付け）
　北上川大泉堤防決壊に伴う遭難記を読む（元佐沼警察署長　高橋秋夫著）


ＪＡ中田広報平成６年１月号記事より


　１９４７年（昭和２２年）９月１６日、中田町上沼の北上川堤防がカサリン台風の襲来による豪雨で決壊しました。この史実を小学生児童が地域住民から調査し、学芸会で手作りの劇として上演しました。中田町立上沼小学校の四年生２４人は、九月に祖父母参観の授業で「北上川」に関する映画を見ました。昭和２２年９月に同地区の大泉堤防が決壊、死者・行方不明者・流失家屋・耕地などに甚大な災害を被ったことを知りました。実際に惨状を見た祖父母から水害の話を何人かから聞きました。その後、「どうだろう、カサリン台風による堤防決壊について、もっと調べてみよう」との声が高まり、四年生児童たちの聞き取り調査が開始されました。児童たちは自分たちが調べたことを記録し「秋の学芸会で劇として発表しよう」と話がまとまりました。

　カサリン台風の豪雨による被害については、「昭和２２年９月１６日、午後９時１５分頃に堤防決壊。死者２０人、行方不明１０人。流失家屋２７１棟。被害耕地八千ヘクタール」と記録されています。１１月１４日、同校の四年生は屋体で、児童たちが自ら脚本を書いた本当の手作り劇「カサリン台風」（学芸会の案内では「カスリン台風」となっています）を地域の人々を前に上演しました。昭和２２年９月１４日夜半からの豪雨は１５日まで統きました。１６日午前１時に雨はやみ、空には星が瞬いていました。同１０時に堤防決壊の危険、同日午後９時、決壊防止作業の活動も空しく、万策尽き避難命令が出されました。同９時１５分、異様な水の音が遠く離れた所でも間こえました。
　この決壊時に堤防内側に流入した氾濫流量は一秒間に３３０立方メートル 。損害額は当時で一億円を超えた−とあります。

　児童たちは前日からなかなかやまない雨に不安な住民、堤防を守る消防隊員、警察官の動きと堤防決壊後の復旧作業終了までを熱演しました。 　上演するにあたり児童たちは、堤防決壊で地域住民とともに警察官が犠牲になっていたことを知りました。東和町米谷出身の小松儀一巡査（のちに警部補に特進）は２１年６月から佐沼警察署に勤務。堤防決壊の前日から迫川、夏川、上沼の北上川大泉堤防の決壊防止作業に当たっていました。１６日午後、北七川堤防が決壊。激流に押し流されながらも自己の危険さえ顧みず地区民、同僚の安否を気遣い救助しようと激励しながら漂流中、高さ６m余りの怒り狂う大波にのまれ殉職しました。




堤防決壊の状況を説明する児童たち

　小松警部補の殉職記念碑は昭和２５年９月に建てられ毎年、警察友の会や地域住民らの手によって命日の１６日に慰霊祭が行われています。
　劇を発表する直前まで脚本の書きかえが行われました。小松警部補の弟さんと連絡が取れたのです。小松茂さんの手紙には、こう書かれていました。

　「四年生の皆さんが「カスリン台風」の劇を発表してくださるとか、涙が出て来て止めようがありませんでした。兄もさぞかし草葉の陰で嬉し涙にむせんでいることでしよう。どうもありがとうございました。亡き兄は流れて来た屋根の裏板に土地改良事務所の人と二人で乗った。二人が乗ると沈んでしまうので，兄は泳げるからと板に、すがって行けと励ましながら別れたそうです。泳げるから大丈夫、といった兄のことが後日、助けられた人の話でわかりました」そして「命の尊さと自分一人では生きていくことはできず、誰しも生かされていることを教えていただければ幸いです」と担任あてに寄せた手紙に書かれていました。

　児童たちは劇が終わったあとに感想文を書きました。「小松さんの手紙が届きました。先生が、その手紙を読んでくれました。とても悲しい手紙で涙が出そうになりました。そのことを付け加えて劇に発表しました。巡査さんと、溺れる人の場面に涙をこぼしている人もいたようです。参観日の頃は、劇でやるなんて思ってもいませんでした。でも，この劇をやってよかったと思います」と、感動を込めて感想をつづっています。

　今から四十六年前の北上川堤防の決壊。「カサリン台風」について担任の千葉哲先生は「児童たちの作文をもとにして三回、脚本を書きかえました。小松さんの手紙『俺は泳げる、板にすがって…』をいただき、急きょ付け加えました」と話します。もう４６年前のできごと堤防決壊。児童たちの劇は、地域の人々に当時の惨状をよみがえらせ「もはや忘れていたことを思い出した」。災害の記憶が人々の脳裏をよぎりました。児童たちの熱心な調査に基づき上演された「カサリン台風」。生きた授業の発表に観衆は感動し大きな拍手を措しみませんでした。

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